<パネルディスカッション>
「ファンとのコミュニケーションから見える、出版社ブランドビジネスの可能性」
パネリスト:栗原 資英 氏 (講談社 / FORZA STYLE チーム エグゼクティブプロデューサー)
沢木 拓也 氏 (小学館 / BE-PAL編集室長)
松井 一晃 氏 (文藝春秋 / Number局長)
モデレータ:大給 近憲 氏 (光文社 / 取締役)
大給 ネット上にファンコミュニティは多くありますが、そうしたものと出版社が運営するコミュニティとの違いはなんでしょうか?
沢木 ファンの関心は、雑誌を好きになったうえでSNSやリアルなイベントへと広がってきますが、その元にあるのは信頼性の高さです。雑誌を読んでいなかった若い人も「親が読んでいたから」などとつながってくる根底には、紙文化への信頼性があると思います。
大給 ネット上のコミュニティには、かなりマニアックな傾向に走るものもありますが、そういったところとの違いは?
沢木 雑誌は「これだけをやっています」ということではなく、幅広く情報を集めています。コアな人ではなく、初心者に向けて発信しているので、根本的な方向性が違うと思います。
大給 ファンをつなぐうえで、コミュニティとイベントをどのように使い分けていますか?
沢木 ファミリー向けのイベントが中心ですが、長い距離を歩く、焚き火を学ぶなど、目的によってはコアな人向けなイベントもあります。
大給 イベント開催は手間がかかって面倒だと思われがちですが、松井さんはイベントの意義をどう考えていますか?
松井 むしろ「面倒くさい」ことにこそ価値があると思っています。『Number』はスポーツ総合誌として、毎号ジャンルを変えつつ様々なことをやってきましたが、それだけでは変わっていく世の中の全ての人々の興味と関心には届きません。そこで、少ない人数でもコアな人に届くものは何かという視点で考えた結果、「体験してもらうことしかないのでは」と思うようになりました。そこに価値を見いだして、今いる読者にもっと喜んでもらうためにイベントを開いています。確かに手間はかかりますが、ファンが喜ぶ姿を直接見て、そこにこそ価値があると考えるようになりました。ネットで探せば何でも見られるようになった現代では、活字だけでコンテンツを作るのではなく、リアルで体験してもらったほうがより一層満足してもらえると思います。
大給 ファンがファンを生んでいく相乗効果という話もありましたが、ネットやSNSのコミュニティだけでは、なかなかそういう連鎖はできないものですか?
松井 まだ、私たちはその次元まで手をつけられていません。「ファンでいてくれる人たちに、もっと満足してもらうにはどうしたらいいか」と考えながら一生懸命やっている段階です。『BE-PAL』や『FORZA STYLE』のように、ファンの人たちが自走して新たに盛り上がれる何かを見つけてくれたら、それが理想だと思います。
大給 イベントやオフ会がファンにとってどういう意味があると、栗原さんは考えていますか?
栗原 どちらでもサードプレイスが求められていると感じています。例えばハンドルネームで呼び合うようなことで盛り上がり、そして参加者たちが知り合いになればSNSを通じて『FORZA STYLE』のことを話してくれるようになる。ウェブメディアは人手が足りないので、ファンのサポーター的な発信はとても大事です。そのために一度は会って、私やエディターが顔を売ることが重要なのです。
大給 『FORZA STYLE』のコミュニティは、ネット上で自然にできるものとは、どう違うのでしょうか?
栗原 私たちのコミュニティでは、ファン同士がマウントを取り合わないように気を使っています。
大給 いわゆるネットのコミュニティではマウントの取り合いなどがエスカレートする可能性がありますよね。
栗原 そこは編集者が敷居を下げる、ダサいところも出すということが大事だと思います。
大給 ファンがファンを生んでいく連鎖について、沢木さんが気をつけているところ、考えていることはありますか?
沢木 編集部が定期的にコミットすることはとても大事です。中立的に眺めながらも「ちゃんと見ていますよ」と加わるのが最も上手くいきます。イベントではファシリテーター的な人も入れますが、キャンプでは設営から撤収まで編集者も一緒に汗を流すので、一緒に作っていることは伝わっていると思います。
大給 ファンとの目線合わせはどうですか?
沢木 気をつけていますね。こちらがあまり「先生」にならないよう、編集者が教わるところもちゃんと見せるようにしています。
大給 スポーツ取材のプロとファンとでは目線合わせが難しいかもしれませんが、『Number』では目線合わせのイベントを分けて開いているのですか?
松井 分けていませんね。そもそも現場ではプロとファンの違いをあまり意識していません。雑誌作りでは「永遠の初心者」であることが求められますが、先行している『BE-PAL』と『FORZA STYLE』の成功も、その基礎があるからだと思います。
大給 ファンコミュニティを活性化させるため、一緒にコンテンツを作ってもらうといったプロセスについて、どう思いますか?
栗原 『FORZA STYLE』にはファンが投稿できるYouTubeチャンネルがありますが、自分の投稿が同じ時間を作り、それに対して他の人がチャットし会話が生まれます。これが次のオフ会に誘う呼び水となり、結果コミュニティの活性化につながると思います。
大給 なるほど。最近、ユーザーはメーカーの話を聞かない、聞くのはユーザーの話だけだとも言われています。そんな今だから、企業が消費者に理解を求めるとしたら、まずファンを味方につけるということは大事になってきているのではないでしょうか。私も雑誌作りで経験しましたが、ファンは作り手のよき代弁者になってくれます。そこにこそ、不透明な時代に手間をかけてコミュニケーションを深める意義があると、3メディアの方のお話を聞いて実感しました。ファンビジネスを醸成していく上で、今一度、その点に目を向けていただければと思います。
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