<パネルディスカッション>
パネリスト:松田紀子氏 (オレンジページ / オレンジページ編集長)
畑江貴子氏 (集英社 / LEEweb編集長)
山岡朝子氏 (ハルメク / ハルメク編集長)
モデレータ:星野 渉 氏 (文化通信社 / 取締役社長 執行役員)
畑江氏:定期購読でしか手に入らない『ハルメク』において、最初の購読するきっかけは何ですか?
山岡氏:『ハルメク』は書店には置いておらず、こちらから宣伝しないと認知されません。基本的には新聞やテレビ、最近ではウェブ広告でも販促を行っています。それ以外に、シニア女性コミュニティ内での口コミも影響があります。
星野氏:一方、書店で雑誌を購入してもらうためには、どのような販促をしていますか?
松田氏:ツールとしてはインスタグラムやTwitterがメインで、今後はYouTubeにも注力する予定です。ウェブでは自社サイトの『オレンジページnet』で雑誌を紹介しつつ、ウェブ単体でも十分楽しめる仕掛けになっています。また、そこには作り手側の顔が見えることが重要で、最近ではインスタグラムで、10分程のゲリラライブを敢行しています。ゲリラなので気づく人は少ないのですが、アーカイブとして残るため、それが根雪となり視聴者数も大きくなります。
畑江氏:3誌の中では読者層が一番若く、やはりSNSは無視できません。普段書店に行かない人にも、ウェブやSNSを通じて『LEE』を知ってもらうことが重要であり、ウェブでは記事単位で外部配信するなど、まずは身近なところから興味を抱いてもらい、後に雑誌購入に繋がっていけばと考えています。また、最近では主婦層に刺さるメディアの形態としてポッドキャストなど、音声メディアも活用しています。
星野氏:シニア層は、ウェブやSNSに苦手意識をもっている印象がありますが?
山岡氏:実はシニア女性のスマホ保有率は高く、『ハルメク』読者では9割を超えています。リテラシーに差はありますが、確実にデジタルシフトしています。販促ツールにおいても、SNSやウェブの比率は高まっています。
星野氏:編集部では、ファンである読者の声や想いをどのように汲み上げ、誌面やウェブに反映させているのですか?
畑江氏:「LEE100人隊」と編集部は常にコミュニケーションを取っており、特定のテーマに関してヒアリングするだけではなく、日々更新される彼女たちのブログに必ず目を通し、彼女たちの関心事や悩みを拾いあげ、それを記事に反映させています。
松田氏:月に一度、全国の読者から厳選した6名のコア読者と編集部でオンラインミーティングを実施して、雑誌の企画などについて意見をもらい、それをタイムリーに反映させています。また、LINEのオープンチャットでも読者とつながっており、常に様々な意見やアイディアを募りながら、それを企画や誌面作りに活かしています。
星野氏:読者を絞り込むという事ですが、それを全体の意見として問題ないのでしょうか?
松田氏:兼任しているファンベースカンパニーでは、特別なアンケート項目をもとに、レベル別にファンを抽出します。コアファンはフリーコメントでの熱量が高いので、すぐにわかります。また、これを検証するために、年1回実施している読者調査アンケートで、我々が導き出しているコアな読者像が、幅広い層にも当てはまるのかを定量の調査で確認しています。このように、定性・定量どちらの調査も重要になってきます。
星野氏:ファンコミュニティの満足度をどのように向上させ、ファンの維持につとめ、読者の離脱を防いでいるのですか?
畑江氏:「LEE100人隊」を一つの塊として扱わず、編集者がひとりひとりに目を向けて、編集スタッフが丁寧に接することを心掛けています。そのため100人隊は一年契約ですが、途中で離脱する方はいません。
山岡氏:定期購読の難しいところは、特定の号一冊が面白ければ良いわけではなく、継続して読者の期待を上回り続けなければならないところです。一年を通して購読してもらうためには、読者の目の前の悩みだけではなく、長期的な悩みに対する答えのヒントをちりばめていき、これからの生き方や考え方のヒントを読者に見つけ出してもらうことで、ハルメクを読んで良かったと実感してもらうことがポイントです。
星野氏:雑誌の編集だけではなく、ファンコミュニティを運営するノウハウはどうすれば身につきますか?
松田氏:個人差もありますが、編集者は、日々取材で人と会って話を引き出すことを得意としていると思います。それと一緒で目の前のファンに喜んでいただけるように、和気あいあいと「この人と話ができて良かったな」という雰囲気を味わって貰うことが大事なので、いつもの取材時の対応を活かせば良いと思います。
畑江氏:100人隊の運営は、編集部が担当しており、二人三脚でやっているのですが、コミュニティを運営する上で雑誌の編集力がオーバーラップすると考えています。ただ、マーケティングの知識があるわけではないので、ここに関しては専門家の意見が欲しいと思うことが多々あります。私はデジタルソリューション部マーケティング室も兼任しており、そこで専門家の話を聞きながら、その知見を編集に活かすよう全社的に取り組んでいます。
山岡氏:ハルメクでは、思いやりや想像力とは別に、論理的思考やマーケティング視点を重要視しています。編集はクリエイティブ職ですが、編集部に入るには論理的思考とマーケティング視点が試されます。良い記事が書けるだけではだめで、シンクタンクが出してくる満足度調査、これが微に入り細に入りデータやグラフで出てくるのですが、そのデータの意味するところを、瞬時に理解し、仮説を組み立てて次の企画に活かせるスキルが求められます。トレーニングもありますが、ベースには数字に対する強さや論理的思考、インサイトを追求する素養が必要です。
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