10月2日、ViVi・平本哲也氏、non-no・中川友紀氏、CanCam・加藤真実氏の3人の編集長に加え、博報堂・安島博之氏、瀧川千智氏を迎えて特別フォーラムを開催し、564人の方にご参加いただきました。メディアや広告環境の変化を受け、本フォーラムでは、出版社IPや動画を活用した最新事例を紹介し、雑誌ビジネスの可能性や未来に向けた多様な視点が示されました。
進化する雑誌ビジネス ~Z世代メディアの編集長たちが語るきざし~
■パネリスト
講談社 平本哲也 氏(ViVi事業部長/NET ViVi編集長)
集英社 中川友紀 氏(non-noブランド統括/編集長)
小学館 加藤真実 氏(CanCamブランド室 編集長)
■モデレーター
博報堂 安島博之 氏(新聞雑誌局デジタルアカウント推進部 部長)
博報堂 瀧川千智 氏(コンテンツクリエイティブ局企画クリエイティブ二部 部長)
【第1部】雑誌広告ビジネスの今
安島氏:雑誌はマーケティングファネルにおける“ミドルファネル”に位置し、興味喚起や理解促進を担うメディアとされています。現在、この領域では動画の重要性が高まっており、特に比較的長尺の動画は、出版社の編集力と相性が良く、ユーザーの関心を引き、理解を深める手段として有効です。動画はテレビCMやリードの獲得、オウンドメディアでの活用など多様に展開され、ファネル全体をシームレスにつなぐ役割も果たしています。出版社が得意とするミドルファネル施策も、動画を核に進化しており、その事例は増加しています。このあと、3人の編集長に、質の高い動画コンテンツの実例をご紹介いただきます。
①動画事例
加藤氏:CanCamでは、現在公開中のFURLA様とのタイアップ企画において、編集部が制作したインスタのリール動画を中心に展開しています。バッグの豊富なカラーバリエーションが映えるよう、キャッチーでテンポの良い演出を心がけ、視聴者が直感的に「かわいい」と感じられる構成にしています。さらに、動画と連動させてウェブ記事やインスタフィードマガジンも展開しています。ウェブ記事ではバッグのスペックやコーディネート提案、使い方などを詳しく紹介し、記事内の写真はインスタにも投稿して、多くの人に届ける工夫をしています。話題性重視の施策が多い中、CanCam編集部は商品の本質的な魅力を丁寧に掘り下げ、多角的に「かわいい」と感じてもらえるコンテンツ作りを大切にしています。
平本氏:ViViは2017年頃から動画制作に注力し、特にショート動画で豊富なノウハウを蓄積しています。ほっともっと様と国宝級イケメンのコラボ動画など、多様なショート動画を編集部が制作しています。また、動画を基盤にコスメブランドとのワークショップやイベントも手掛けており、2aNのメイクアップショーでは企画から告知、事後レポートまで全て動画で展開しました。IHADA様のワークショップでは若者のリアルな発想を取り入れ、アイテムのキャッチフレーズを考案し、クライアントから高評価を得ました。さらに、MOUSSY様の動画企画はSNSで大きな反響を呼び、ファッションショーへと発展しました。TikTokの運用相談などSNSコンサルも行い、ViViの動画制作力は編集枠を超え幅広く評価されています。
中川氏:しまむら様とのタイアップでは、トレンドのバレルパンツを専属モデルの香音さんがキャッチーかつテンポよく着こなし、リール動画やウェブ記事で大好評を得ました。甘めのイメージがある香音さんがカジュアルなデニムスタイルをおしゃれに着こなすギャップが話題となり、多様な専属モデルから最適な人選をしたことも成功のポイントです。また、本田技研工業様とのタイアップは博報堂様との企画でnon-noが監修を担当しました。モデルの紺野彩夏さんと林芽亜里さんがレトロなプレリュードでほのぼのとした掛け合いを繰り広げ、ヴィンテージ感のある車との意外性がバズる鍵となりました。ショートストーリー風の動画で若い女性のホンダへの親しみを高め、現在第二弾も進行中です。
②出版社IP活用事例
瀧川氏:これまでの動画事例は広告コミュニケーションの一環でしたが、近年は広告の枠を超えた活用事例が増えています。次のテーマは「出版社のIP活用」。ここでのIPは広義の意味でとらえ、雑誌という枠を超えた取り組みを中心にご紹介いただきます。
加藤氏:CanCamナイトプールは2016年に始まり、来年で10周年を迎えます。17年の新語・流行語大賞でCanCamが「インスタ映え」を受賞した背景には、このナイトプールの人気がありました。初期は華やかな装飾でしたが、時代に合わせてナチュラルで落ち着いた雰囲気へと変化、19年には動画映えを意識した「ムービージェニック」をテーマに掲げました。コロナ禍の20、21年は中止となりましたが、22年の再開では淡いピンクやレトロなフォントで「エモさ」を表現し、写真映えやコラボフードなど体験価値を高めました。今年のテーマは「癒やし」。ボタニカル装飾や香りのワークショップで心地よい空間を演出しました。宣伝方法も進化し、ライブ配信や空間演出など新たな協賛が加わりました。CanCamナイトプールは、トレンドに寄り添いながら進化を続けています。
平本氏:「体験 produced by ViVi」をテーマに、ViViはIPを活かした新しい体験づくりに注力しています。「ViVi国宝級イケメンランキング」では、半期ごとに国内外から投票を集め、結果発表の投稿が毎回Xで世界トレンド1位を獲得しています。7月の1位発表は渋谷のサイネージで行われ、事前告知がない中でも多くのファンが集まりました。また、「#推しが国宝級になった日」プロジェクトでは、本田響矢さんと野村康太さんの協力のもと、ファンのラブレターやイラストを新宿のサイネージで公開。集まったメッセージは「ラブレターBOOK」として本人に届けられ、SNSでも大きな反響を呼びました。さらに9月末には「ViVi超ポジティブEXPO 2025 AW」を開催。ViViモデルによるワークショップや企業ブースを通じ、来場者が参加して楽しめる体験型イベントを実施しました。ViViは今後もIPを活かし、新たな体験価値を発信していきます。
中川氏:non-noでは8月に、読者組織「大学生エディターズ特別講座」を開催しました。ビューティーへの関心が高い読者に向け、イミュ様と「今っぽふんわり眉の描き方」をテーマに実施。dejavuのPR&開発メンバーによるレクチャーで学びの多い内容となり、参加者はすぐにブログ投稿を行い、情報拡散にもつながりました。クライアント・読者・編集部すべてに満足度の高いイベントとなりました。また、集英社のマンガIPとのコラボも積極的に展開。社内編集部の原作絵を活用し、読者との親和性が高い企画を実現しています。カレンダー付録は毎年大きな反響を呼び、『SPY×FAMILY』『【推しの子】』に続き、今年も人気作との付録を準備中です。過去にもマンガIPを活かしたタイアップを実施しており、今後の相談にも柔軟に対応します。
【第2部】出版社データ活用~MDAM~
安島氏:2017年に集英社様で始まった雑誌制作のDXを契機に、集英社様・小学館様・講談社様という大手3出版社が連携し、「MDAM(Magazine Data Asset Management:エムダム)」プロジェクトを推進しています。MDAMは、各社の雑誌アーカイブデータを一元管理し、多様なデータ活用を通じて新たな価値やビジネスの創出を目指す取り組みです。
これまで各社では、業務の効率化や省力化を目的とした「守りのDX」を進めてきましたが、2022年以降は、付加価値の創出やマネタイズを視野に入れた「攻めのDX」へと戦略を転換しています。2023年からは博報堂DYグループもアドバイザリーとして参画し、出版社や関連企業と共に、MDAMの活用促進と新たなビジネス開発を加速させています。
MDAMの最大の特長は、トレンド性や理性的な構成、明確なカテゴリー分けといった雑誌コンテンツの強みを活かし、複数出版社にわたる時系列データを横断的に分析できる点にあります。現在、MDAMを活用したビジネスは主に2方向に展開されています。1つ目は、トレンドを生み、お墨付きを与えるという雑誌の特徴を活かし、MDAMを分析ソースとして活用する“データ分析事業”。2つ目は、MDAMをアーカイブコンテンツの集積と位置づけ、そこに付加価値を加えて展開する“コンテンツ外販事業”です。
また、2023年末には、「ViVi」「non-no」「CanCam」の編集長を迎えてウェビナーを開催しました。その中で、MDAMを活用した分析結果から、各誌がターゲットとする読者層とSNS上のクラスターに共通点があることが明らかになり、雑誌ならではの視点で、多様なライフスタイルに最適なメッセージを届けていることが示されました。
さらに、博報堂のマーケター集団「ヒット習慣メーカーズ」は、MDAMのデータと編集者の知見を融合した共創型マーケティングプログラム「Z習慣EDIT」を展開。Z世代向けの商品・サービスの開発からコミュニケーション設計までを一貫して支援し、約3か月のプログラムを通じて、新たな生活習慣の創出を目指しています。
今後も、出版社・博報堂・広告主の三者が連携し、変化の激しい消費環境に対応しながら、Z世代の生活に根付く“ヒット習慣”の創出を進めていきます。
①雑誌に期待される発信力
瀧川氏:これまでの事例や実績を踏まえ、雑誌の魅力や発信力、トレンドやヒット商品の起点としての役割についてお聞かせください。
平本氏:雑誌の強みは、編集者の「見出しを作る力」と「事象を切り取る力」にあります。ViViは特に誌面でビジュアルをしっかり見せられる点が強みで、視覚的訴求力が高い媒体です。近年では、ベージュのワントーンコーデに肌見せや抜け感を加えた「ラテガール」という新しいギャルスタイルを提案し、ラテメイクとともにSNSでも広まりました。このように、編集力とビジュアル表現力によってトレンドが生まれ、雑誌がブームの創出と発展に重要な役割を果たしていると実感しています。
中川氏:non-noは、トレンドやカルチャーのハブとして信頼される存在でありたいと考えています。情報があふれる中で、雑誌が「これがいい」と自信を持って発信することは非常に重要です。読者はお金を払って雑誌を手に取り、「non-noに載っているなら間違いない」という安心感を求めています。最近では「毎日メイクは涙袋が6割」が好評で、大学生の調査でも約6割が涙袋に注力していることがわかりました。non-noは、こうした読者の動きを踏まえ、具体的なメイク法などの情報を丁寧に届けています。また、誌面の“かわいさ”や“ビジュアルの破壊力”は、スマホ画面では伝わらない、雑誌ならではの強みです。
加藤氏:雑誌は物理的に“形に残るモノ”という強みを持っています。最近は雑誌をグッズのように楽しむ読者も増え、「表紙が可愛いから飾りたい」という声も多く届いています。モノとしての魅力があるからこそ、SNSだけでは伝わらない価値を届けられます。雑誌ならではの価値を活かしながら、多様な展開につなげていくことが重要だと考えています。
②雑誌編集はどう変わるか
瀧川氏:SNSや動画の重要性が増す中で、雑誌編集部はどのように変化してきたのでしょうか。また、デジタルに流されすぎず、編集部としてのあり方をどのように保っているのかについてもお聞かせください。
加藤氏:編集部は、ブランドごとに紙とデジタルの役割を調整しながら、変化に対応しています。編集部が起点であることは変わりませんが、動画制作も内製化し、映像で魅力を伝える方法を学び続けています。根本となる「良い面を切り取り、素敵に見せる力」は維持しつつ、新しいプラットフォームにも柔軟に対応していくことが重要だと考えています。
中川氏:non-noでは紙とウェブを1つの世界観として捉えています。雑誌はページ数や締め切りが厳しい一方、ウェブは柔軟で新しい企画に挑戦しやすい場です。ウェブで成功した企画は雑誌に還元され、また雑誌の記事もウェブで発信することで、双方が好循環を生み出し、ビジネスの成長につなげています。
③Z世代読者の特徴-アプローチに必要なこと
瀧川氏:Z世代向け雑誌として、最近の若者の傾向や特徴についてお聞かせください。
平本氏:Z世代は「究極のサバサバ世代」だと私は言っています。デジタル上での数字を見ても感じることですが、良いものには敏感に反応しますが、興味のないものは完全にスルーする傾向があります。建前や嘘はすぐに見抜かれるため、信頼を得るには真摯な姿勢が欠かせません。ViVi編集部でも、ブランドの軸を大切にしながら、本音で伝えることを意識し、日々、トライ&エラーを重ねてより良いコンテンツづくりに取り組んでいます。
中川氏:Z世代はデジタルネイティブで目が肥えているため、誠実に作られた雑誌は彼らに受け入れられると考えています。長年読者を見続け、本当に良いものを届けてきた歴史が自信につながっています。特にZ世代には共感を重視したアプローチが重要で、自分や推しを応援する楽しさと、「これでいいよね」「これが好きだよね」といった雑誌ならではの確かな提案のバランスを毎号意識して届けています。
加藤氏:最近の読者アンケートで、20代前半の方が「初めてCanCamを買いました」と答えた声が印象的でした。誌面に「しごでき」や「イケビジュの大渋滞」などZ世代に馴染みのある言葉があり、「私も読んでいいんだ」と安心できたとのことです。Z世代の言葉をそのまま使うわけではありませんが、調査を踏まえて歩み寄る姿勢は大切で、雑誌を“遠い存在”にせずハードルを下げることも今後の編集のポイントです。
瀧川氏:最近、自分を軸にしたキーワードが注目を集めています。こうした背景を踏まえ、改めて「エンパワメント」の文脈がどのように重要性を増しているのか、お聞かせください。
平本氏:ViViは「自分至上主義」や「自分の人生を生きよう」といったテーマを掲げ、Z世代の背中を押すコンテンツづくりを目指しています。ファッション誌でありながら、内容はファッションにとどまらず、若い世代が抱える悩みや日々のトラブルに向き合えるマインドや知識も届けています。このような背景から、「エンパワメント」はViViにとってコンテンツ作りに欠かせないキーワードになっています。
④雑誌ビジネスのきざし
瀧川氏:皆さまの事例やご意見をお聞かせいただき、ありがとうございました。
雑誌ビジネスの今後を考えるにあたり、「デジタル・データ・数字」とどう向き合い、雑誌独自のポジションをどう再定義するかが、大きなテーマであると改めて感じました。情報がコモディティ化する中で、雑誌には「治安の良さ」や「信頼性」、「編集部ならではの目利き」による価値提供が求められており、これこそが雑誌の強みであり続けると考えています。
また、「最推しは自分」「自分至上主義」といった自己肯定やエンパワメントの時代において、雑誌は単なるトレンド発信から、人生やキャリアを支援するパーパスを持つ存在へと変化しています。企業もパーパスを重視しており、メディアとクライアントが同じ方向を向いていることは心強いことです。
こうした流れの中で、雑誌ビジネスは編集力と信頼を核に、デジタルも活用しながら新たな価値創造に挑戦するフェーズにあると感じています。雑誌ビジネスに新たな“きざし”が見え始めている今、未来の可能性に大いに期待したいと思います。


Write a comments