日本最大級のニュースアプリとして多くのユーザーを抱える「SmartNews」―地図上でリアルタイムに降雨を予測する「雨雲レーダー」や、指定地域の話題を届ける「地域チャンネル」など、従来から位置情報を利用した機能を備える同サービスは、その活用の幅を広告配信にまで広げています。3月14日、スマートニュース株式会社から早川氏を講師に迎えた勉強会には、289人の参加があり、位置情報広告についての基礎知識から活用例、オフライン広告との連携など、多面的な解説がありました。
「位置情報データを活用した広告配信の仕組みとターゲティング戦略」
早川 保孝 氏
スマートニュース株式会社
広告代理店 第二事業部 アカウントエグゼクティブ
私は2022年に位置情報広告の専門ベンダー・株式会社ジオロジックに入社し、営業から運用サポートまで幅広く従事してきました。現在、同社の親会社・スマートニュース株式会社に在籍し、位置情報を活用した広告プロダクトの営業企画を担当しています。本日は位置情報広告を基本から紐解きますので、業務にお役立ていただけると幸いです。
●位置情報とは何か―データの種類とそれぞれの特性
位置情報とは、特定の場所やデバイスについて、緯度・経度のような座標を示すデータを指します。様々な技術から取得できる情報ですが、広告配信・計測に利用される位置情報は、①GPS②Wi-Fi③ビーコン④IPアドレス―の4つを通じて取得するデータが主流となっています。
まず、①GPSは、衛星信号をスマートフォンなどに搭載されている受信機で捉え、位置を特定します。高精度な情報を取得できますが、屋内や地下になると滞在しているフロアなどの特定が難しくなります。そして、②Wi-Fiは、周囲のアクセスポイントの位置情報と信号強度を利用し、無線通信可能なデバイスの位置を特定する方法です。③ビーコンは、その信号をBluetoothなどの技術を通じてスマートフォン等で受信することで、特定範囲の位置を取得しています。最後の④IPアドレスは、インターネット接続時の識別番号をもとに、おおよその地域を特定する方法で、比較的精度は劣りますが、オンラインサービスで広く利用されているデータです。
4つの位置情報データには、それぞれに長所と短所があります。広告利用においては、量が豊富なGPSデータを利用するケースが多く、効果計測に際しては、高精度な情報が取得できるWi-Fiやビーコンのデータを利用するケースが見受けられます。これら3つは距離的精度を見ても非常に優れています。同様の観点からすると、市区町村単位の取得にとどまるIPアドレスのデータは見劣りしますが、端末の通信時に取得できるだけあってデータ量が豊富で、市区町村の粒度で指定可能という面では運用しやすいと言えます。
仮に5階建てマンションの最上階に住むユーザーを特定する場合、GPSとIPアドレスは高さの情報まで取得できませんがWi-Fiやビーコンであれば、概ねフロアを特定できます。ただし、Wi-Fiやビーコンは近距離での情報取得に優れている一方で、GPSやIPアドレスと比較するとデータ量が少なくなるケースがあります。そのため、4つのデータの長短を見極めながらうまく組み合わせて活用する必要があります。
●広告配信を始めるにあたり、注意したいこと
位置情報広告を始めるには、まず、ターゲティングを行います。特定の位置を中心に半径を指定して円状のエリアを描く手法が一般的で、そこに居住ないし来訪するユーザーを対象に配信します。各社のビジネススケールに合わせて、実店舗の商圏など、本当に配信したいエリアにターゲティングできることが、何よりの魅力です。
例えば、神奈川県下で北西・南東に伸びる広い面積を持つ川崎市には、北西の新百合ヶ丘駅周辺と、南東の川崎駅周辺の商圏がありますが、両駅は直線距離にして20キロ、電車を乗り継いで30分、車なら1時間と離れた場所にあります。こうした中で、新百合ヶ丘駅でサービスを展開する商店が、行政区画どおりに、川崎市全域に広告配信することは効率的とは言えません。それよりも、位置情報を駆使して、新百合ヶ丘駅を基点に半径を指定し、都下にありながらも距離が近く、地元商圏に含まれる多摩市や稲城市に配信する方が理にかなっています。仮に、両駅にそれぞれ実店舗を置く場合も、広範な行政区に沿って広告配信するより、商圏に即して来店確度の高いユーザーに配信する方が効率的です。
ここで注意点を挙げるなら「あまり狭域に設定し過ぎない」ことです。データ量が多いとされるGPSにしても、OSの仕様からデバイスやアプリの設定まで、位置情報取得には色々な要素が絡み合うため、ターゲティングエリアに居住ないし来訪されるユーザー全ての位置情報を揃えることは不可能です。あまりに狭域になると、対象ユーザーを見つけられず、配信できなかったり、結果的に費用がかさんだりということが起こりかねません。そのため、仮に駅をピンポイントで配信する場合にも、ユーザーが徒歩でどのような経路を辿り、自転車や車ならどのように走るのか、周辺の行動動線を意識する必要があります。
●具体的な活用イメージを膨らませてみる
オーソドックスな活用手法を少し具体的にご紹介します。店舗の住所をもとに商圏に合わせたエリアを設定しますが、徒歩圏内のユーザーを対象にする場合は半径1キロ程度、大型商業施設のように車での来訪も想定する場合には半径5〜10キロで設定するケースが多く見受けられます。電車での来訪が多いエリアでは、店舗周辺の半径1キロ程度をカバーした上で、最寄駅や当該路線の各駅を追加でターゲティングしていくイメージです。店舗ごとに訴求を変更できることは位置情報広告の強みです。
また、広告をクーポンとして配信することで来店訴求を図ることができ、店舗で利用してもらうことで効果計測に厚みが出てきます。広告をクリックして遷移するページでクーポンを取得するような仕組みにすると、その取得状況をトラッキングして取得率を明らかにできます。クーポンの利用状況から来店者数や購買状況を疑似的に計測することができ、POSデータとの連携が実現すれば、さらに高精度な効果検証ができると想定されます。現在、ユーザーの位置情報とWEB上のユーザー行動の組み合わせで、より高精度なターゲティングができる仕組みも開発されていますが、オフラインのユーザー行動のトラッキングは、まだまだ精度に課題があります。当社をはじめ位置情報広告を展開中の企業は、より高精度な計測の実現に努めているところです。
●オフライン広告との連携で広告効果を高める
位置情報広告とオフライン広告は、どちらもユーザーの実際の行動を意識してターゲティングするため、非常に相性が良く、併用をお薦めできます。新聞折込やポスティングは、何丁目単位で配布エリアが設定されますが、そこに位置情報広告の配信を重ね合わせることで、オンラインとオフラインの双方でタッチポイントを創出し、広告効果を高めることができます。また、OOHのような設置型広告とも好相性です。例えば鉄道広告の場合、広告が設置されている各駅を基点として、周辺の居住者や来訪者を配信対象にすることで、リアルで広告に触れた方々に、リターゲティングのように再度接触してもらうこともできます。
マーケティングファネルで、オフライン広告との併用による効果を考えると、まず、認知を図る点で、新聞折込やOOHは非常に強い施策だと感じます。ただし、ウェブサイトにそのまま遷移させるという点にはハードルがあるため、そこを位置情報広告で補いたいと考えています。オフラインで認知を獲得したユーザーに、オンラインで訴求することで、ウェブサイトへの流入を促し、商品・サービスについて理解が得られれば来店や購買行動につながるはずです。
●位置情報広告のこれからとスマートニュース
位置情報広告の将来性として、あくまでも私見ですが、先述のような、オンライン行動履歴と位置情報を掛け合わせた配信手法に、AIによる分析が加わることで、ユーザーの行動パターンを読み解き、その動きを予測した広告配信が可能になると考えています。もちろん、プライバシー保護が大前提となりますが皆さまのライフスタイルに可能な限り近づいていくはずです。
現在、「SmartNews」の提携媒体は3000以上、1日の掲載記事は40万件に上り、日本最大級のニュースアプリとして多くのユーザーと向き合っています。その横顔を見ると、男女比率は半々で、年代構成や地域分布にも大きな偏りがなく、日本の人口分布と類似している点はスマホアプリとして特徴的です。また、ニュースアプリですので、働く世代の利用が非常に多く、ユーザーの購買力は高いと言えます。
広告商品は、認知を目的とする予約型広告から、詳細理解や顧客獲得を目的とする運用型広告まで、ワンストップでご用意しています。また、本日の主題・位置情報広告では、昨年、「Hyper Local Ads」ベータ版の提供を開始しており、目下ブラッシュアップを続けています。今後、販促領域でも十分ご期待に応えられるように開発を続け、皆さまのマーケティング活動の伴走者でありたいと思います。
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