当協会では、開発委員会・勉強会を4月19日、Zoomによるオンラインで開催し、613人にご参加いただきました。当日の講演要旨を下記に掲載いたしましたので、是非ご覧ください。
「情報強者の若者に刺さるコミュニケーションとは」
~彼らの情報入手方法、SNSの利用方法を知ることで、
若者へのアプローチのヒントが見えてくる~
藤本 耕平 氏
株式会社 ADKマーケティング・ソリューションズ
EXデザイン本部シニア・コミュニケーション・ディレクター
兼若者プロジェクトリーダー
若者マーケッター集団「ワカスタ」
私は、2010年からADK若者プロジェクトリーダーを務め、12年に大学生で構成する若者マーケッター集団「ワカスタ(若者スタジオ)」を創設しました。ワカスタは、若者自身がマーケッターとなり、若者インサイトや攻略策のヒントを導き出していく組織です。在籍メンバーは東京近郊の大学生約40人で、月2回の定例ワークショップを開催し、若者の間で起こっている現象の分析、企業のコンサルティング、キャンペーン開発などを行っています。
また、全国の大学生約600人が参加するビジネスコンテスト「ワカスタビジコン」を毎年開催。企業が抱えるマーケティング上の課題をテーマに、若者たちが解決に向けたプレゼンテーションを実施し、企業に提案しています。
SNSで話題になる広告
今の若者たちの間で話題になる広告は、意外にも「屋外広告」や「新聞広告」なのです。ワカスタメンバーと私が授業を受け持つ大学3年生の合計100人に好きな広告を聞いたところ、「TVCM」よりも、「屋外広告」「新聞広告」が人気でした。これは直接広告に接触させられるかというリーチ観点ではなく、どれだけSNSで話題にしたくなる広告かどうかというスプレッド観点に、メディアのパワーの指標が移行していることを示唆しているように思います。
若者のSNSとの向き合い方
最近、ある企業から「若者をターゲットにTikTokで踊ってもらうようなキャンペーンをするのはどうだろうか?」と相談をいただきました。これは有効な施策の1つではありますが、それが全てではありません。というのも、私たちの調査で「TikTokに自分が映った画像、動画を投稿する人」はわずか2.8%であることが分かりました。彼らは非常に影響力・行動力がありますが、ごく少数であるため、その情報がどのように広がり、それを若者がどう感じるのかを逆算しながら施策を設計しなければなりません。また、調査では「SNSで自分の日常を見せたくない、相手に見られるのが嫌」47.5%、「スクショされることが怖くて投稿をためらう」30.6%、という結果が出ています。ワカスタメンバーにも、友達から「あの時ここの店にいたよね」など、自分の投稿を証拠として後で見せつけられた経験がトラウマで、SNSでの投稿を控えるようになったという若者もいました。
このように、一概に若者といっても、自分のSNSを見てもらいたいという人もいれば、恐怖を感じて投稿をためらう人もいます。若者はそれぞれの意識を抱えながら、それぞれの向き合い方でSNSとの共存を図っています。
若者に受け入れられる情報とは?
若者たちと一緒に、企業からの情報発信で、若者に届きやすいアプローチ方法を探っていくと、大きく5つの若者特有の情報収集行動が浮かび上がってきました。
①「顔が見える情報」
日々莫大な量の情報が生まれる中、デジタルネイティブとして生きている若者は、情報の取捨選択スキルに長けています。彼らは、“自分と違う価値観の人の情報よりも、自分が認めた誰かの情報”を選択しています。例えば、不特定多数のレビューよりも、自分が認めた特定の人のSNSを見ながら「この人がこれを買ったのなら、自分にも合うかも」という思考回路のもと商品を購入します。インフルエンサーや自分が憧れる身近な人を、キュレーター的存在として認め、その人に絶対的な信頼を置いて情報を収集しています。これは「距離が近い憧れ」、つまり“リアリティ”と“つながっている感”が重要であると考えます。
若者へのアプローチ方法として、インフルエンサーを活用するときも、様々な価値観に共感してもらえるよう、複数人起用し、それぞれの価値観で伝達してもらうことが重要となってきます。
②「事実よりも想い」
若者はブランドを好きになる際、商品機能の進化のスピードに左右されず、本質的な部分を見極めることを意識的に行っています。具体的には、新商品のスペックよりも、何のために作られ、どんな想いが込められているのか、という部分を気にします。例えば、「iPhone14ではなく、15を買っているのはなぜ?」と聞くと、「iPhoneを作る企業の姿勢は信頼できるし、絶対に14より変なものは作らないと思うので15を買っています」と返ってきます。以前は、失敗したくないという考えからスペックを比較して商品購入に至りましたが、今では、比較検討する時間をもったいないと思い、ブランドで商品を選んでいます。いわゆるブランド復権が起きています。ブランドといっても、ルイ・ヴィトンのような有名ブランドではなく、今の若者は有名・無名に関係なく、自分がブランドの考え方に共鳴できるかどうかで選び、そのブランドの考え方・信念にどっぷり浸りたいと感じています。
若者へのアプローチ方法として、ブランド、デザイナー、商品企画者の性格、想い、何を目指しているのかなど、人柄が伝わる工夫をすることが有効です。
③「興味のある未知」
「自分の好きなものに囲まれていたいけど、新しい発見がないとつまらない」という少しわがままな欲求が若者の中に生まれています。そうした若者のニーズを満たすものとして代表的なものが、インスタグラムの発見タブです。発見タブは自分がフォローしていないアカウントの投稿を一覧で表示する機能ですが、自分にとって“興味がありそうなもの”を非常にいい塩梅で提示してくれます。これはTikTokも同様で、アルゴリズムによって新しい気づきを提示してくれるため、若者との相性が非常に良いと言えます。
若者へのアプローチ方法として、発見される文脈にブランドを置くことが大事です。例えば、飲料という文脈だけでアプローチすると、興味が顕在化している人にしか届きませんが、サウナや推し活など他の文脈に飲料を入り込ませることで、彼らにとって新しい発見になります。いかに若者が興味を示す文脈でブランドの価値を転換できるかが重要です。
④「情報収集のミニマム化」
「情報量が多すぎて処理できないから、楽に情報収集を済ませたい」という考えが若者の中に生まれています。多くの情報が入ってくると、自分の好きな情報が
埋もれてしまうので、最低限知らなければならない情報はなるべく最小限に抑えたいという考えが、情報収集のミニマム化です。自分の好きなカテゴリー以外をフォローする場合は、1カテゴリーにつき1インフルエンサーに絞るといった若者も増えています。自分はオールマイティーである必要はなく、興味のない分野の情報収集は得意な人に任せたい、「餅は餅屋」という感覚を持っています。
若者へのアプローチ方法として、商業主義ではなく、人々の生活を一人のプロフェッショナルとして豊かにするスタンスが必要です。若者の中に、“この分野はこのブランドに頼ればいい”という認識を作り上げることが重要です。
⑤「Tribeが着火剤」
今は、好きなものをとことん追求できる環境が整っており、好きな人たちに情報が集まってきます。その結果、若者は強烈なオタクから流れてくる情報を共有し、さらに彼らと情報を深めていきます。好きなものが同じオタク同士は、デジタル上でつながり、コミュニティを形成します。代表的な主戦場はSNSですが、Xだと匿名で相手の素性が分かりにくいため、実際に会うことに不安を感じます。そのため、Tinderのようなマッチングアプリで、趣味仲間を作る若者も出てきています。このように好きなものは好きな人同士、つまりオタクたちが固まり(=Tribe)になって活発に情報交換している、という現状があります。
若者へのアプローチ方法として、様々なTribeの中から、どのTribeを選定し、そこに何を投げかけるか、またそこからどう情報波及させていくのか、を考えることが重要です。
7つのクラスターで見る若者攻略方法
SNSと共存する若者は、それぞれのタイプによって、意識や行動が全く異なります。例えば「企業の情報が一番早くて正確だから、好きな企業のアカウントをフォローして常にチェックしている」というタイプもいれば、「SNSは友達との交流がメインで、企業の情報がタイムラインに入ってくると紛らわしいから、フォローしない」という真逆のタイプもいます。このように、SNSとの向き合い方は千差万別であるため、若者を一括りにしてSNSでアプローチするのではなく、若者のタイプごとにSNS利用の特徴を踏まえ、各タイプに合わせて若者攻略する必要があると考えます。その手法を「ワカナビセブン」-ワカモノを7つのクラスターに分類しワカモノの理解をナビゲート-と呼んでいます。
①「みんな推しミーハー」
みんなと一緒ということが、自分の自己肯定感アップにつながるタイプ。SNSで流行っているものを後追いする、周りの影響を受けやすい人たちです。インスタグラムやTikTokを中心に利用しています。
②「内輪ネタリスト」
内輪だけが分かってくれればよいというタイプ。自分の価値観に合うものに対して高感度にアンテナを張っています。不特定多数というよりは、分かる人に届けという気持ちで、主にXに投稿します。趣向の合う人と内輪でつるむ傾向にあるため、自分が信頼しているインフルエンサーの考えや情報を重視しています。
③「無頓着ソロ充」
こだわりが薄く、ミニマムな生活を好む孤高の存在で、あまり行動、消費をしないタイプ。SNSを積極的に使わないため、なかなかコミュニケーションのターゲットになりづらい人たちです。
④「アクティブリーダー」
クラスや会社などコミュニティの中心的存在タイプ。周りから憧れられることが一番の喜びで、みんなからの“いいね”でモチベーションがアップします。様々なアプリを積極的に利用し、自分の顔出し投稿が多い傾向にあります。
⑤「セルフプロデューサー」
周りの反応に踊らされずSNSで自分らしさを表現するタイプ。自分のスキルアップにつながるモノや情報に対する投資を惜しまず、積極的に取り入れるため、企業の情報が届きやすい傾向にあります。情報収集ツールとしてインスタグラムやXを効率よく利用します。
⑥「人情屋リアリスト」
周囲への優しさや思いやりを大切にし、仲間との関係性を大切にするタイプ。インスタグラムで逐一投稿すると仲間関係を壊す恐れがあると感じるため、投稿は少し控え、リアルな友達関係を重視します。そのためSNSはそれほど活発ではありません。
⑦「自己完結ガチオタ」
好きなものに没頭できるオタク気質タイプ。趣味関連の投稿が多く、タレントやアニメなど推しの情報を積極的に見ているため、SNSでの情報に目が肥えています。キャンペーンに接する機会も多い分、ありきたりのキャンペーンでは動いてくれません。Xでの投稿が多く、利用時間も非常に長い傾向にあります。
味方にするべき3つのクラスター
7つのクラスターを紹介しましたが、どのクラスターから広げるべきか悩むところです。特に重要視する3つのクラスターと、そのアプローチ方法を挙げたいと思います。
まず、「内輪ネタリスト」。彼らは自分の価値観に合う情報を欲していますが、企業情報に関しても面白いと思うものは発信してくれます。例えば、CMのメイキングや裏ネタなど、彼らが語りたくなるような文脈に変換してアプローチすることが重要です。
次に、「セルフプロデューサー」。知的好奇心旺盛な彼らは、価値のある情報だと認識すれば、反応してくれます。ただ単に面白いということではなく、自分の生活に活かせる新鮮で有益な情報を欲しています。自分らしさの表現につながる有益な情報に変換してアプローチすることが重要です。
最後に、「自己完結ガチオタ」。彼らは、得意分野や好きなものの情報を強力に欲しています。例えば、CMに推しのアイドルの楽曲を使うだけでも、彼らは非常に盛り上がり、情報発信してくれます。彼らの好きなものを解明し、好きなものと関連付けてアプローチすることが重要です。
今の若者は、幼いころから大量に情報を浴びてきた世代なので、彼ら特有の情報収集行動に合わせて情報を提供していかなければなりません。また、若者といってもタイプによってその行動も大きく異なります。そのため、どのタイプの若者を味方につけるべきか、また、そのタイプの若者はどんな特徴があるのか、その特徴に合わせて企業がどう情報提供をすべきかなど、若者アプローチの際には緻密なコミュニケーション設計が求められてきます。若者をもっと知ることで、彼らに有効なアプローチを実現させていきましょう。
Write a comments