ソーシャルメディア・コピー論 なぜブランドは新聞広告を必要としているのか。
電通 クリエイティブ・ディレクター / コピーライター
橋口 幸生(はしぐち・ゆきお) 氏
(株) 電通 クリエイティブ・ディレクター / コピーライター。 ソーシャルメディアで支持されるコピー、企画を得意とする。代表作はロッテガーナチョコレート、スカパ ー!堺議員シリーズ、鬼平犯科帳25周年ポスター、「世界ダウン症の日」新聞広告、貞子3D「世界でいちばん、3Dが似合う女」など。『100案思考』『言葉ダイエット』著者。TCC会員。 趣味は映画鑑賞。 Twitterフォロワー1万7千人。 https://twitter.com/yukio8494
新聞広告が熱い
デジタルが普及していくなかで、紙媒体は駄目になったと思われがちです。しかし、TikTokで本を紹介する‟BookTok”の影響で、アメリカでは紙の本の売上が2004年以降で最高となるなど、ソーシャルメディアの登場で物理メディアが復活しつつあり、新聞の価値が再発見されているというのが私の仮説のストーリーです。 スマホとソーシャルメディアの普及で、速報やレコメンドはコモディティ化し、何の苦労もなく、タダで入手できます。
その一方で、速報の背景を丁寧に読み解いたり、レコメンドはされないが重要な情報を知ることは、現状では新聞以外にやれるメディアはありません。自分の関心事以外の社会的な情報を知るうえで、新聞は一番有効なメディアです。そして、これは新聞記事だけではなく新聞広告にも言え、デジタルを使いこなすクリエイターほど、新聞広告を使いこなしています。最近のヒット事例では、新聞広告の黄金時代を経験したベテランではなく、デジタルを使いこなす30・40代のクリエイターのほうが、新聞広告を使いこなしています。そのため、Twitterとの相性が良い新聞広告はさらに復活していくと思います。
新聞広告復活の背景
新聞広告の復活には、(1)ターゲティングのコモディティ化(2)ビジネスのSDGs化と、人々のSDGs市民化、この二つの潮流が背景にあると考えています。
(1)ターゲティングのコモディティ化
ターゲティング広告が登場した背景には、広告の効果測定が困難な時代が長く続いたことがあり、ターゲティングが広告をビジネスとして進歩させた一面はあります。しかし、今やターゲティング広告が当たり前になった結果、弊害も見えてきており、ターゲティングできないことの価値を見直す時期がきています。広告の最も重要な使命の一つにはにぎわいの場を提供することがあり、その際にはターゲティング(=排除)をするべきではありません。誰も排除しないで盛り上がりを作ることにおいては、一目でわかる新聞広告がすごく効果的だと思います。
(2)ビジネスのSDGs化と、人々のSDGs市民化
SDGsは良くも悪くもトレンドになり、かえって本質が見えにくくなっています。所詮は流行とか、意識高い系、お金持ちの道楽などと揶揄されがちですが、実体経済がSDGs前提で動き出しています。その結果、環境やサステナビリティへの投資であるESG投資は、世界の運用資産の三割を占めています。日本でもGPIFが、ESG投資を強化する方針を決定するなど、大量のお金がSDGsの名の下で動いており、もはや一時の流行という段階ではありません。
この影響は企業だけではなく、一般市民にも及んでいます。デモなどに参加する人は一握りですが、Twitterのタイムラインに流れてきた社会的イシューにいいね!した経験は誰にでもあると思います。
さらに、ソーシャルメディアでの小さな声の積み重ねが世の中をアップデートさせ、ビジネスにも大きく影響します。好むと好まざるとに関わらず、スマホを持った瞬間に人をSDGs市民と化す現象がソーシャルメディアで起きています。そして、この潮流の受け皿として、もっとも適した広告媒体が新聞広告だと思います。
ソーシャルメディア時代の新聞広告に求められるもの
Twitter上でバズる新聞広告をよく見かけますが、新聞広告を拡散させるためのプラットフォームとして、Twitterは非常に優秀です。Twitterの登場によって、新聞広告の新しい価値も生まれていますが、闇雲に新聞広告を作っても効果はなく、ここで重要になるのは、「企画」と「クラフト」、そして「モーメント」の組み合わせです。
まず「企画」。Twitterでバズる企画には、(1)「本音」(2)「驚き」(3)「共感」、これらの要素が重要です。(1)「本音」では、カッコつけないで、都合の悪いこともさらけ出すことです。そして、(2)「驚き」では、ただ驚かすだけではダメで、納得感のあるオチが必要です。驚きの拡散例として、鬼平犯科帳の25周年企画では、少女漫画風、ラノベ読者向け、BL読者向け、ハリウッド向けと全然違うモチーフを用いていますが、奇をてらっているように見えて、帯をよく見ると原作の魅力をそのまま言っているだけという納得感があります。また、(3)「共感」では、言われてみれば、そうかも!・・・と思ってもらうことが重要です。
次に「クラフト」。これはサイズの大きさと、手に取れることを活かすことが新聞広告最大の武器になります。
最後に、「モーメント」、これは特定のテーマに人々の注目が集まるタイミングのことです。平たく言えば記念日などですね。モーメントはソーシャルメディア企画としての新聞広告を出稿する絶好のチャンスです。ここではTwitterのモーメントカレンダーが参考になります。
The News Moment(*新聞広告をプロモツイートで拡散する、電通のソリューション)で行った映画広告「ディア・エヴァン・ハンセン」を実践例として挙げてみますと、
企画:コピー&歌詞への「共感」
クラフト:15段全面が楽譜という「クラフト」
モーメント:公開前日に出稿
この結果、2日間で計3300いいね、600リツイート以上の拡散となるなど、Twitterのメインユーザーである若者にリーチするだけでなく、洋画のメインターゲットである40代以上の人にも新聞でアプローチすることができ、メディアプランとしても理に適っていました。
ソーシャルメディアでの拡散
ソーシャルメディアで広告を拡散させたいという課題に対しては、オーガニック(クリエイティブな広告にシェアやいいね!をする)と、アド(フォロー&リツイートで、Amazonギフト券プレゼント)の2種類の方法があります。アドは重要な基本動作ですが、他社との差別化が困難です。
一方、オーガニックはアドほど再現性が高くはありませんが、成功すればブランドにとって大きな資産になります。これらは、二つとも重要な要素ですが、使い分けることが大事です。普段は地道なアドでエンゲージメントを高め、自分のブランドが盛り上がるモーメントがある時にはオーガニックを投下する、このようにお互いを組み合わせることでお互いを補完しあい、より高い効果を発揮できます。そして、オーガニックの打ち手として新聞広告が最適で、より効果的だと思います。
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