コミュニティ起点で考える
講談社のデジタルメディア戦略と広告ソリューションとは
講談社
ライツ・メディアビジネス局 局次長
長 崎 亘 宏 氏
出版の再発明
2015年、出版の「版」を「データ」と書き換え、紙にとどまらずデータをパブリッシングする「出版の再発明」を社長自ら宣言するとともに、組織改編とビジネス構造改革を行い、紙ベースだったメディア群のデジタル化が一気に進みました。
広告収入は、それまでの過去10年間、右肩下がりでしたが、一方ではデジタルシフトも進めていました。デジタルファーストメディア『ミモレ』、『FORZA STYLE』、YouTubeチャンネル『ボンボンTV』の開設や、『COURRiER JAPON』の完全デジタル化などです。18年頃からそれらのスケールが拡大し、広告収入も増加に転じました。コロナ禍で一旦下降したものの、21年の上期は2桁成長を見込んでいます。驚かれる方も多いのですが、当社の広告収入全体に占める現在のデジタル広告比率は6割以上に達しています。デジタル広告収入はターニングポイントとなった宣言当時の約10倍となりました。
メディアビジネス
19年末にJIAA(日本インタラクティブ広告協会)が発表した「インターネット広告に関するユーザー意識調査」によると、インターネット広告には「しつこい / 不快」など、ネガティブな評価がみられます。本来、雑誌は広告親和性が高いのですが、デジタルメディアになると真逆のことが起こり得るということで、こうした忌避の反応は壁になりました。そこで目指すべき価値として考えた「Community」「Contents」「Channel」の3つのCを最適化して、読者コミュニティと広告主のブランドコミュニティを、いかに繋げるか。単に届けるだけではなく、リーチ+共感でどのように繋げるか。そこが私たちの出発点です。例えば、サッポロビールの通称「赤星」というビールには強烈なファンがいます。こうした広告主顧客と私たちの読者コミュニティを繋げる公式ファンサイト「赤星探偵団」を運営してもう5年になります。私たちの読者コミュニティと広告主ブランドコミュニティを繋げるスキームの具体例です。
以前のメディアビジネス戦略は、O2O(Online to Offline)、オフラインをどのようにオンライン化するかという視点でしたが、コロナ禍以降の新しい視点はOMO(Online Merges with Offline)です。コアな頂点から裾野へ向かうO2Oと異なり、OMOは広い入口からロイヤリティが高い読者コミュニティのコア層に向かうという発想、デジタルの先に雑誌やイベントなどのフィジカルがあるというアプローチです。例えば、『FRIDAY DIGITAL』には約1350万の月間ユニークユーザーがいますが、その次のレイヤーに課金モデルがあり、さらにリアルの本誌があるという捉え方です。入口を広げたことで、白石麻衣さんの写真集などの関連書籍が大ヒットする基盤ができました。
COMMITMENT
出版社メディアのアドバンテージは2軸の価値です。一つは従来の価値で、ターゲットは個人、ゴール設定はリーチ。もう一つが新たな価値で、ターゲットは読者コミュニティやブランドコミュニティ、ゴール設定は共感。2軸の価値とは、リーチの広さと共感の深さを掛け合わせた容積ですが、この共感の深さを計測することを目指しています。
リーチを表す講談社のオールデジタルメディアへの月間トラフィックは約7億PVと1.5億UUです。規模としてはほどほどといったところなので、価値を掘り下げる必要があります。そこで、独自開発した広告配信プラットフォーム「OTAKAD」(オタカド)を19年秋にローンチしました。このシステムは、当社デジタルメディアの全ユーザーの閲読状況を、AI解析によってクラスター分けし、さらに属性を加えます。ライフスタイル、エンタメ、ファッション、キャリアなど、特徴的な嗜好・偏愛を持つターゲットに、適切な広告やコミュニケーションを当てれば、レゾナンスやリアクションが期待できるというのが基本発想です。アピールポイントは、大手プラットフォーマーのような大きなユーザーセグメントと異なり、あくまでコンテンツが引き起こした態度変容を元にしたコンテキストターゲティングだということ。この仕組みでは、リーチ結果を提示できるだけではなく、コミュニケーションの中で何がキラーワードになったのか、ブランドのどういう要素が響いたのかといった分析が出来る点もメリットです。
講談社が目指す「広告のかたち」
「おもしろくて、ためになる」、これが私たちの企業理念です。メディアビジネスにおいては、「おもしろくて」は魅力あるユーザー体験、「ためになる」はクライアントの成果に繋げること。インターネットの世界で、ただ追いかけてくる広告は嫌われがち。追いかけるのではなく、追いかけたくなる広告を、皆さんと作ることが私たちのミッションです。
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