メディアのブランド力で拓く、これからのコミュニケーション
~ 栃木リビング新聞社 『リビングとちぎ』
青空に映える黄色い車体が、宇都宮市街を走る。―今年8月に開通1周年を迎えた路面電車は、沿線人口の増加や地価上昇、工業団地における企業の設備投資拡大など、大きな経済効果をもたらし、未来への光の道「ライトライン(LRT)」の愛称で親しまれている。いま、地方都市の振興モデルとして注目を集める宇都宮。そして、この街の賑わいに彩りを添える地元メディアのひとつに、栃木リビング新聞社がある。同社が発行する『リビングとちぎ』編集長・三井美紀氏のお話からは、発行事業の枠を超えて、人と人、あるいは行政・企業をつなぎ、地域活性化を後押しする、マーケティング企業の横顔が見えてくる。(取材日:2024年9月25日)
-主婦向けメディアとして定評のあるリビングネットワーク各紙の中で、栃木県では貴社がしっかりと読者をとらえていらっしゃいますね。
女性がつくる、女性のための生活情報紙として産声を上げ、全国各地にネットワークを持つ『リビング新聞』は、おかげさまで、栃木県でも多くの皆さまに支えられています。そして、この地に根ざして34年目を迎える今、当社は女性を中心としながらも、そのパートナーや子どもたち、さらには親御さんを含む3世代に向けて、良質な情報をお届けできるように努めています。地域の女性、そしてご家族を応援することが、地域活性化にもつながると信じています。『リビングとちぎ』が抱える12万超の読者は、40?60歳代のファミリー層が中心になりますが、その前後の世代も含めてバランス良くファンを集めています。
本紙は、宇都宮市のご家庭1軒1軒にポスティングしていますが、近年、配布スタッフにご夫婦の姿が見受けられるようになりました。これも、地域メディアとしてご家庭にしっかりと浸透しているように感じられて、嬉しくなります。
-親しみやすい紙面には、呼び掛けてくるような力を感じます。どのような工夫があるのでしょうか。
読者に身近なメディアとして、「わかりやすさ」を重視しています。健康情報などは、どうしても専門的になりがちですができるだけ平易な言葉を選ぶなど、すべての読者に自分ごととして受け止めてもらえるように編集を徹底しています。また、地域色や季節感も大切にしています。例えば直近の発行号では、芸術の秋、美術館だけではなく、宇都宮の街なかに点在するアートスポットを見つけ、“気軽にアートに親しみ、楽しもう”という提案をしました。
そして、読者のライフステージの変化も見逃さないように気を配っています。育児から親の介護まで、皆さまが立つ地点はさまざまです。紙面づくりが、当社の独りよがりにならないように、アンケート調査などあらゆる手段を通じて、読者像を捉えておくことも重要です。
それは、広告においても同様です。一方的な発信にならないためにも、読者モニターの「生の声」を財産として活かしています。オンラインの専用フォームを通じて多様な声が寄せられますが、地域に暮らす生活者としての的確なご意見の数々は、広告主企業の皆さまに喜ばれています。また、自治体からのお知らせを掲載することも多いため、パブリックコメントを求める行政にも重宝されています。
こちらが寄り添えばこそ、12万超の読者が応えてくださる、動いてくださるのだと感じています。
-ウェブサイトでは、地域特派員レポートが注目されているようですね。
リビングネットワークでは、各地で地域特派員が活躍しています。当社でも、本紙やウェブサイトを通じて募集した皆さまに、地元の飲食店や観光の話題などの情報発信に協力してもらっています。手を挙げてくださった方々、ひとりひとりにお会いして、興味関心などを伺った上で、地域特派員の名刺を渡しています。育児中で会社勤めはできなくても地域参加を望む方、子育てが落ち着いてご自身の時間を持とうとする方、活躍の場を求める地元ブロガーなど、20~60歳代まで、30人ほどのメンバーが活躍しています。読者層に沿うように幅広い年齢の仲間を迎えられたことは、地元で長年発行を続けてきたリビング新聞の看板が力を貸してくれたのだと感じています。
地域特派員には、決してコンテンツの量産を期待しているわけではありません。「心から良いと感じられる味覚や場所を記事にしてほしい」と伝えています。記事添削などのアドバイスは必要になりますが、PVが集まったときには、お祝いをしてモチベーションアップに繋げています。配布エリアにとらわれず、広く情報発信できるオンライン上において、心強い存在になっています。
-コロナ禍の中での企画が、紙面やウェブサイトだけではなく、街なかにも飛び出したと伺いました。
2021年、取材に出かけることも、イベントを企画することもままならなかった当時、読者を巻き込んで何かできたらとの願いから、本紙創刊31周年にちなんで、「五・七・五・七・七」の31文字で、読者に宇都宮の魅力を表現してもらうことを思い立ちました。農業協同組合や商工会議所などから賞品を頂戴したこともあって、多くの読者が応えてくださり、627作品が集まりました。紡がれた言葉の数々に、この街に思いを巡らせてくださる皆さまの姿が重なり、本当に嬉しくなりました。
入賞作品は、本紙やウェブサイトでの紹介にとどまらず、行政の協力を得て、市内を流れる釜川沿いの遊歩道に飾り、皆さまの暮らしの中に色を添えることができました。こうした取り組みを、同じ地元メディアの下野新聞社さまが地域欄で取り上げてくださったことも嬉しい思い出です。また、SNSで拡散されたことも大きな力になりました。
-貴社主催の「足尾緑化体験」は、しっかりと定着しているようですね。
当社の主催イベント「足尾緑化体験」は、地元企業協賛のもと、06年から定例化しています。足尾銅山の煙害で荒廃した土地に苗木を植える緑化事業を、自らのライフワークにしてくださっているファンが多く、参加募集前から問い合わせを受けるほどです。
昨年は、県庁と連携して、栃木県誕生150周年の記念行事として実施しました。ご家族のコミュニケーションの場にもなるように、とちの実で笛をつくるクラフト体験を盛り込むなど工夫を凝らし、80人ほどの参加に恵まれました。当日は、県庁から担当者が視察に来られ、大変評価していただきました。広告主企業をはじめ地域企業のみなさまにもこの輪に加わっていただき、より大きなイベントに育てていけたらと期待しています。
-リビングネットワークとして全国的に取り組まれているキャンペーンがあると伺っています。
今春から始まった「さかなを食べよう!」キャンペーンは、原発処理水に係る風評被害に直面している漁業関係者の支援をきっかけに、全国の魚食文化の推進やご家庭での食育にもつながるように、リビングネットワークとして取り組んでいます。海なし県の当社も含めて各地のリビング新聞社が魚にまつわるさまざまなコンテンツづくりに励んでおり、全国的なキャンペーンになっています。
当社では、宇都宮の縁起物として知られる黄ぶなを帽子にした、さかなクンならぬ「きぶなくん」の、お魚トリビアのコーナーを設け、本紙で出題するクイズの回答と解説をウェブサイトに掲載、紙とデジタルの両面に賑わいを持たせました。QRコードは、紙幅に収まらなかった貴重な情報にいざなうツールとして定着し、本紙の場合は、年配読者にもきちんと響いています。もちろん、広告においても活用しており、企業のみなさまは、本紙を「信頼のおける入口」として、読者に知っていただく「きっかけ」になさっています。
きっかけづくりは紙面だけではありません。今夏、読者親子の参加を募り、宇都宮市中央卸売市場で見学会を催しました。マグロの解体作業を爛々とした目で見つめる子どもたちに、丁寧に説明を加える市場関係者―初めての試みでしたが、市場の皆さまも手応えを感じてくださったようで、新たなコミュニケーションの機会を創出するステップになりそうです。
-地域の中で、貴社に求められる役割は広がっていますね。
現在、県広報紙の特集記事制作を受託したり、宇都宮市男女共同参画フォーラムのイベントでは当日の進行から動画配信まで運営の一切を任されたり、地域の中でさまざまな役割をいただいています。
昨年開業したLRTは、街の賑わいを弾みに、宇都宮駅西側への延伸が計画されています。この地に根ざす当社は、本紙やウェブサイトはもとより、信頼関係のもとに成る地域ネットワークを活かしながら、街の発展に貢献できるように、根を伸ばしていけたらと考えています。
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