日本ABC協会は、一般社団法人 デジタル広告品質認証機構(通称:JICDAQ)から検証・確認機関の指定を受け、2021年7月から検証業務を開始しています。JICDAQは21年3月に設立され、このたび4年目を迎えました。今回は、JICDAQ事務局長・小出誠氏に、デジタル広告業界の現状と今後の展望についてご寄稿いただきました。
JICDAQ 設立から4年目を迎えて ~現状と今後の展望について~
一般社団法人 デジタル広告品質認証機構
事務局長 小出 誠 氏
1.デジタル広告の課題(掲載品質の問題)
本年2月に発表された電通の「2023年日本の広告費」によると、デジタル広告(インターネット広告)は前年比107.8%の3兆3,330億円となり、総広告費の45.5%を占める広告メディアに伸長しました。これはデジタル広告が、ターゲティングや効果の可視化などの面で、他のメディアに比べ優れた特長を保有しているからにほかなりません。
一方、広告掲載の点でいくつかの課題を抱えていることが、ここ数年多く語られるようになってきました。その代表的なものが「アドフラウド(広告詐欺)」や「ブランド毀損」です。アドフラウドは不正な手法によってクリック数や広告の閲覧数(インプレッション)が水増しされ、広告費がかすめとられてしまう詐欺的行為を指します。また、ブランド毀損は広告掲載に不適切なサイトや面に広告が出てしまう問題であり、その毀損からブランドを守るという視点で「ブランドセーフティ」問題とも言われています。この2つは、広告主からすると、貴重な広告費を浪費する、また広告掲載が良いイメージの醸成とは逆に、ブランドイメージを傷つけかねない行為になるという点で由々しき問題です。
2.JICDAQ(一般社団法人デジタル広告品質認証機構)の設立と現在
アドフラウドやブランドセーフティ問題についての対策はさまざま存在しますが、いずれも人的リソースや費用の点で、大きな負担があります。そこでアドフラウドやブランドセーフティへの対策を講じている事業者を定められた基準にもとづき認証し、その認証を取得した事業者を公開するという仕組みを作ることになりました。広告主が、認証を受けた広告関連事業者を選び、発注することで、アドフラウドやブランド毀損に遭遇する確率が下がることになります。この仕組みの実現のために設立されたのが、一般社団法人デジタル広告品質認証機構(通称:JICDAQ)です。
JICDAQは、図表1のような広告関係3団体によって2021年3月に設立されました。認証基準をクリアする業務プロセスが整備されているかを検証・確認する第三者機関として日本ABC協会もこれに関わっています。設立から3年が経ち、2024年3月時点でJICDAQの「品質認証事業者数」は164、認証取得を目指している検証中の事業者も含んだ「登録事業者数」は184と、数多くの広告関連事業者(広告会社、媒体社、広告仲介事業者など)が関わる団体となりました。
*その他、デジタル広告出稿ビジネスには関わっていないものの、JICDAQの趣旨に賛同し、登録料を負担いただいている賛助登録事業者3社があります。
3.JICDAQ設立によってもたらされた変化と効果
JICDAQには上記の登録・認証事業者以外に「登録アドバタイザー」という仕組みがあります。JICDAQの理念に賛同し、品質認証事業者との取引を推奨された広告主の集まりで、2024年3月時点で133社が登録しています。これは、デジタル広告を発注する広告主こそが、業界の健全化に向けた起点であることから設けられた仕組みです。広告主がアドフラウドやブランド毀損というリスクに関心を持ち、その対策のひとつとして、JICDAQの品質認証事業者に意識して発注することが重要です(図表2)。
同様に、省庁や地方自治体においても、昨今デジタル広告の活用が増えてきており、「税金を使った広告出稿」という点で、一般企業以上にリスク対応が求められています。そのためJICDAQでは「サポート官公庁制度」という登録制度を設け、デジタル広告出稿に関する基礎やリスク情報などを無料で提供する活動も行っています。これらの取り組みが生み出した変化として、主に広告会社が取引先にJICDAQ品質認証事業者であることを求めたり、官庁でも事業の受託において、JICDAQ認証取得を条件にしたりするケースが出てくるなど、デジタル広告事業を営むうえで、JICDAQ認証が必要なものとなりつつあります。
昨秋、JICDAQが登録アドバタイザー向けに行った調査では、過去1年間の発注実績の9割以上が認証事業者に該当すると回答した広告主が、90%に上りました。また、デジタル広告リスク対策ツールを提供しているアドベリフィケーション事業者の協力のもと、JICDAQ商流のアドフラウド対策効果を計測した結果が図表3ですが、一般にアドフラウドの発生率は5~10%程度と言われるなか、JICDAQの認証事業者を、広告主の発注からメディア掲載までの商流に、2社以上組み入れた場合、0.5%~4.2%となり、大幅に低下していることが分かりました。加えて、ABC協会の検証・確認を通じて社内のリスクマネジメント態勢やプロセスを改めて強化した事業者も多く、この点でもJICDAQの設立によって業界全体の健全化に向けたアクションが進み、図表2の流れが整いつつあると言えます。
4.課題と今後の展望
昨年来話題の生成AIは、デジタル広告のリスク環境にも影響を与えています。生成AIによって、アドフラウドを作り出す自動化プログラム(BOT)や、広告で埋め尽くされたMFA(Made For Advertising)と言われるサイトを容易に作ることができるようになりました。広告費の浪費のリスクは高まっており、米国ではMFAサイトに広告費の15%が消費されていると言われています。すなわち脅威は増す一方であり、業界をあげて被害を減らすよう態勢を整えてきたものの、決して油断できない状況にあります。
また、日本において、広告主の対応には温度差がある傾向も課題と言えます。前述のように、デジタル広告の抱えるリスクを認識し、認証事業者に意識して発注する広告主が増えている一方、JICDAQが毎年行っている調査では、広告主におけるアドフラウドやブランドセーフティなどのリスク課題の認知率は3割から5割にとどまっており、これに向けた対策を行っている広告主は3割以下という結果も出ています。
JICDAQでは、今後も引き続き、広告主への啓発活動を積極的に行い、図表2の流れをより確かなものとしていきたいと考えています。
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