JICDAQ運営委員・山口有希子氏インタビュー
デジタル広告の品質課題を解決するための認証機構として設立された「一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)」は、2023年4月で3年目を迎えました。今回は、JICDAQ運営委員をお務めのパナソニック コネクト・山口有希子氏に、JICDAQ設立の意義や成果、現状の問題点などについてお話しをうかがいました。
山口有希子氏:
パナソニック コネクト株式会社
執行役員 ヴァイス・プレジデント CMO(JICDAQ運営委員)
―JICDAQ設立から2年が経過しましたが、これまでの成果をどのように感じていますか?
これまで在籍してきたヤフージャパンや日本IBMでは、企業のマーケティングコミュニケーションに従事し、現在在籍しているパナソニック コネクトでは、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)として、マーケティング部門を統括するなど、常にデジタル広告に関わってきました。また、業界団体においては、日本アドバタイザーズ協会のデジタルメディア委員会委員長、JICDAQでは運営委員を務めております。
検証開始から1年が経過したJICDAQでは、昨年11月にこの1年の成果を振り返る「JICDAQ ANNUAL REPORT 2022」を開催しました。そこで発表したモニタリング調査では、デジタル広告取引において、広告主の約85%がJICDAQ認証取得事業者であることを意識して発注しているという結果が報告されました。当社としても、発注する際は、原則、JICDAQ認証取得事業者としか取引をしないことをすでに決定しています。こうした動きは、広告主だけではなく、広告会社等にも広まってきており、結果として、138社(3月現在)が認証を取得されています。
―手応えを感じる一方で、課題も多く残っているかと思いますが、広告主・広告会社・メディア(アドテクベンダー・媒体事業者)の3者に対してのメッセージはありますか?
はじめに広告主に対してですが、先に述べたとおり、JICDAQの活動に対する認知度は高まっています。しかし、デジタル広告品質の課題を認識していない広告主もいまだにいることから、さらなる意識の向上を図っていく必要があると感じています。デジタル広告取引では、様々なプレーヤーが介在することで取引が複雑化し、広告主が最終的な掲載先をコントロールすることが難しいというのが現状です。そのため、広告を発注する広告主が高い意識をもって、取引先に対して安心・安全性や、適切・不適切リストの活用を求めることが必要となります。しかしながら、広告宣伝の現場では、KPI(重要業績評価指標)など、短期的な利益を追求しがちなため、こうしたデジタル広告課題への対応がおざなりになっているケースが見受けられます。この問題を解決するためには、現場の課題としてだけではなく、経営課題として取り組んでいく必要があります。ブランド毀損の問題や、アドフラウドによる広告詐欺、不正業者への資金流失などは、企業としての倫理観が問われる問題です。広告担当だけでなく企業の経営層が企業のコンプライアンスに関わる問題と捉え、しっかりと対応する必要があるのです。
次に広告会社ですが、広告主の知識や意識レベルがバラバラな現状において、広告の専門家である広告会社が高い意識をもって、取引先の安全性をしっかり確保して頂きたいと思っています。ご提案いただくデジタル広告メニューについては、「瑕疵」のない安心・安全なものであるべきですし、そうであってほしいと思います。JICDAQ認証は、そういう意味で高い意識を持っていただいていることの証明であり、広告主にとっての安心につながります。
最後にメディアですが、一般的にデジタル広告においてメディアというと、アドテクベンダー(DSP・SSP・アドネットワーク事業者)と、実際に広告掲載先となるウェブメディアがあります。デジタル広告の特徴でもあるテクノロジーの活用を加速しているアドテクベンダーが、当該問題を理解し、ご対応いただくことは、業界の健全化にとても重要なことだと思っています。
一方、ウェブメディアを運営する媒体事業者に関してもお伝えしたいことがあります。デジタル広告取引では、著作権法に反する海賊版サイトや、違法なコンテンツを公開するサイトに広告が掲載されてしまうリスクが生じます。また、そうしたサイトは、アドフラウドで広告費を不正に詐取していることも多く、結果として、広告主が支払う広告費が、違法サイトの収入源になってしまうケースも発生しています。それにより、良質なコンテンツを提供している一次メディアが適正な収益を得る機会を失っており、質の高いコンテンツを制作すること自体が厳しい状況が生まれています。これは由々しき問題だと思います。JICDAQは、品質認証された広告会社・アドテクベンダー・媒体事業者が、正当な対価を得られる仕組みを目指しています。市場の健全化が進むことにより、悪意のある第三者へ流出していたお金が、一次メディアに正当に支払われることになります。JICDAQの取り組みは、結果として質の高いコンテンツを制作されている一次メディアにも大変意義のある活動ということを是非ご認識いただきたいと思います。
―JICDAQとして今後取り組むべき課題はありますか?
現在、認証を行っている「ブランドセーフティの確保」「アドフラウドを含む無効トラフィックの排除」の他にも、デジタル広告における課題はいくつもあります。ユーザーに広告が見られているかどうかという「ビューアビリティ」、広告商材自体に問題がないかという「広告審査」、配信される広告フォーマットに問題がないかという「ユーザーエクスペリエンス」などです。引き続き、関係各所とも連携しながら、デジタル広告の健全化にとって重要な取り組みを進めていければと思っています。
―ABC協会へのご意見、ご要望などはありますか?
海外ではデジタル広告における先進的な取り組みが多いこともあり、常にグローバルな視点を意識しながら、デジタル広告の課題解決に対応していくことが重要だと考えています。グローバルにおけるデジタル広告の課題解決には、ABC機構が重要な役割を担っており、日本ABC協会はABCの国際機構であるIFABC(国際ABC連盟)と連携して、こうした課題解決に取り組んでいると伺っております。そこで得た様々な知見や成功事例などの有益な情報を各方面にフィードバックし、デジタル広告取引の健全化に活かして頂きたいと期待しています。
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