当協会では、ABCフォーラム2023を2月3日、Zoomによるオンラインで開催し、510人にご参加いただきました。当日の講演要旨を下記に掲載いたしましたので、是非ご覧ください。
空気を読むこと、空気を裏切ること。~広告はどうやったら人気者になれるのか~
博報堂 クリエイティブディレクター
小島 翔太 氏
2012年博報堂入社。「CREATIVE TABLE 最高」所属。手法を問わず、コピーや映像やコンテンツが世の中にきちんと届きソーシャルでリアクションや人の行動を作る施策が得意。カロリーメイト「部活シリーズ」、ロッテ「クーリッシュ」、資生堂「たおりゅう」、SMBC日興証券「イチロー先生」、日清食品「どん兵衛ポエム」など。
空気を読む
広告のメッセージを届けるためには、しっかりと「空気を読む」ことが必要です。広告は、企業と世の中の交点を探して作っていく仕事で、交点にあるのが商品と世の中を結ぶ良い広告です。広告が交点になく、企業側に寄りすぎればメッセージが世の中に届かず、世の中に寄りすぎれば商品のことが伝わりません。
私は企業と世の中(ターゲット)の関係を、学校の先生と生徒の関係になぞらえて捉えています。企業が世の中の人たちとコミュニケーションをとる時、双方向でコミュニケーションが取れるSNSであっても、そのメッセージは権威をまとって受け止められます。生徒に何を言っても、どうしても先生との間に距離を感じてしまうため、いきなり距離を詰めてくる先生は生徒に警戒されます。この大前提は企画を考える時に大事で、どれだけフレンドリーな関係を持ちたいと思っても、基本的にはみんな聞いていません。授業中に教科書を読んでいるだけの授業は、言いたいことを言っているだけのつまらない広告です。また、教育実習上がりの先生がいきなり説教をしても説得力がないように、世の中に知れわたっていないベンチャー企業が人生の価値観を問うようなことを言っても簡単には刺さりません。どういう企業だと思われているかによって、世の中の人たちとの関係性は違ってくるので、キャラクターを読み、空気を読むことが必要です。
さらに、展開するメディアごとに空気を読むことも大事です。ターゲットは様々な場所で様々なことをして過ごしています。新しいメディアも次々に登場するので、ここに投げればいいという場所はありません。メッセージもメディアごとに特化しないと難しい。以前は「企業商品×時代の空気×ターゲットの気持ち」であったものが、メディアごとの空気という要素が増えたので、掛け算でいくと際限なく大きくなってしまいます。そのため、何を、誰のために、どこに出せば良いのかをきちんと見極める必要があり、それぞれの空気をしっかりと読まなければ届きません。
事例紹介》マクドナルド 「マックフルーリー® 小枝™」
メインターゲットは若年層のスイーツユーザーです。
マクドナルドは身近で親しみやすい、若年層にとってはまるで「生徒に近く、人気がある先生」のような存在なので、フランクなコミュニケーションと相性が良いです。 ターゲットである若年層は恋愛に高い関心があるのが特徴的なので、見ていてドキドキする、応援したくなることと、商品を結びつけました。Twitterでも愛され、ターゲットに届きました。
事例紹介》SMBC日興証券 イチローシリーズ
証券会社のメインターゲットは年齢層が高いため、若年層にも親しみを持ってもらうことが課題でした。証券会社なので「かなり真面目な先生」で、ふざけるのは似合いません。SMBC日興証券が語る資産運用の目的は、人生100年時代を豊かに過ごすこと。そのヒントをイチローさんに語ってもらうという企画にしました。同社はイチローさんとの契約が最も長い企業なので、素のイチローさんの言葉を引き出すことができると考えました。今回のターゲットが Twitter や TikTok の「切り抜き文化」に親しみがあることに合わせ、一個一個のトピックとして立つような質問をすることで、ショート動画を大量に作りました。テレビ番組のようなロングインタビュー形式にするのではなく、メディア側の空気に合わせて企画をチューニングした結果です。この動画が話題となり、第2弾、第3弾と異例の規模で展開し、当初の目的の若年層の認知に貢献しました。
事例紹介》 大塚製薬 カロリーメイト 「入学から、この世界だった僕たちへ。」
今の高校生は「コロナじゃない高校生活を知らない」と言います。入学時から当たり前に制限されても部活を3年間がんばってきた。日常だから仕方ないと思いつつ、それでも「一回は応援に来てほしかった」「修学旅行とか文化祭、体育祭もちゃんとやりたかった」-そういう空気が全体的に漂っている中で、きれい事だけを言っても伝わりません。そこで「マスクの内側の本音」をちゃんと受け止めて、肯定してあげたいと考え、ラッパーの神門(ごうど)さんを起用して、胸の内を吐露するように歌うポエトリーリーディングという手法を用いて動画を作りました。
事例紹介》日清食品 どん兵衛
課題は若年層のマインドシェアを上げること。「若者といえばTwitter!」みたいな空気だった頃、Twitterを主戦場にありとあらゆる角度から、「情報に敏感な若者の間で、どん兵衛を頻繁に話題にする」ことが求められており、「空気を読む」に当てはめると、「先生が面白い生徒と同じ笑いを取らなければいけない」というようなハードルの高い作業ですが、インスタント麺という商材的にもユーモアを求められるブランドだったので、「ベルサイユのばら」とのコラボで話題性を喚起したり、不動産業界のポスターをモチーフにした「マンションポエム」風のコピーでどん兵衛の品質訴求を話題にし、「どんぎつね写真集」で食べ方の訴求をするなど、Twitterユーザーの面白センサーや空気を徹底的に読んで、どん兵衛の要素とどう掛け算すれば面白いと思ってもらえるかという視点で企画を磨きました。「空気を読む」原体験となった仕事です。
空気を裏切る
空気を読んだ上で、少し裏切ることも大切にしています。お笑い芸人がニュース番組などの主戦場以外で笑いをとるようなイメージで、許されるギリギリのラインを見極めてユーモアを入れるといったことを目指しています。
例えば、イチローさんが素敵なことを言う、人生のヒントを出す。すごく真面目でいいのですが、それをおばあちゃんの家みたいな和室でやる、ジャージを着て担任の先生でやるといったことが少しの裏切りです。少しの裏切りで空気感が絵として強く、みんなが見たくなるものを作れるので、空気を読んだ後に、何か裏切れないかと常に考えています。
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